大谷翔平選手の元通訳水原一平氏は、現在アメリカで暮らしており、保釈中とのことだが、10月には判決が出るそうだ。数年間の実刑は確実だろう。
刑務所で服役を終えれば、刑事責任は果たしたことになるが、これとは別に民事責任の問題が残る。
民事責任とは、水原氏が大谷氏の預金を使い込んだことによって、大谷氏が被った損害、つまり失われた預金を大谷氏に賠償金として支払う責任だ。
ただ、損害賠償責任は、被害者から支払いを請求されない限り、果たす必要はないので、大谷氏が水原氏からお金を支払ってもらおうと思わなければ、それでおしまいになる。
実際に大谷氏が支払いを請求するつもりなのかどうか知らないが、仮に請求されても億単位の賠償金など、一般人には払えない。
このようなときに頭に浮かぶのが、自己破産である。自己破産という言葉は、少し古くさくて、今は破産手続というが、要するに、裁判所にお願いして、借金を帳消しにしてもらうための法律で認められた手段で、正確には、裁判所から破産開始決定と免責許可決定をもらう必要がある。免責というのは文字通り、責任を免除するとうことで、負債を返済する義務を免除する、帳消しにすることだ。
借金は返すのが当たり前ということくらい小学生でも知っているだろうが、国が法律でわざわざ借金帳消しなどという虫のいい制度を作ったのは、借金苦でノイローゼになったり、夜逃げしたり、一家心中したりという悲惨な結果を招かないよう、経済的に立ち直り、人生をやり直すチャンスを与えようという考えに基づく。
しかし、どんな悪人でも破産すれば借金帳消しになるというのでは、世の中がおかしくなるので、破産法という法律で、免責されない、帳消しにならない債務、をいくつか定めている。
その一つが、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権だ。
悪意とは、積極的に他人を害する意欲という意味で、ゲーム賭博に使うために、無断で大谷氏の預金口座から金を払い出せば、大谷氏の預金を我が物にして、その結果、大谷氏が損害を受けても構わないという考え、つまり悪意があったとされて、破産しても、被害者である大谷氏の損害賠償請求権は、帳消しにならない。
そういうわけで、仮に水原氏が破産しても大谷氏に対する損害賠償責任は消えずに残る。
ただし、その損害賠償責任も、永久に残るのではなく、大谷氏が5年以内に裁判などの正式な方法で請求しないでいると、時効で消滅することになる。